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中三の二学期に兵庫県西宮市から東京杉並区阿佐ヶ谷に転校してきて二週間後に友達も出来ないまま修学旅行に行くなど、どんより灰色の中三生活を送っていた私にもだんだんと友達は出来た。中でも当時最も仲良くなったのがJ(仮名)だった。 いろんな話をし、自転車で一緒に出掛けたり、私のギターに興味を示してくれて一緒に歌ったりJにギターを教えたりもした。 高校受験が迫っていた。教科書の種類も授業進度も関西とは異なってたこともあり中間テストは散々な結果に終わり、期末テストで結果を出さないと都立高に入れないと思い、期末テスト前日前夜、猛勉強する気満々でいた(普段からやってればいいだけの話なんだがそれまでずっとそうしてきたもんで)。 試験前夜、Jがもう一人の友人(私が住んでいた社宅アパートの同じフロアで隣に住んでいた)と三人で一緒に勉強しようと言ってきてするも案の定ほとんど勉強にならず初日のテストはかなり不本意な状態で臨み、さらに次の日の夜もJともう一人の友人がまた誘ってきた。さすがに今度は断って一人で勉強しているとなんと二人は隣の友人宅からベランダを乗り越えてやってきた(ちなみに三階。危険、、、)。 とりあえず自分の部屋の中に通して、再びキッパリ断ることが今度は出来ず、結局また一緒に勉強することになった。 テスト結果は推して知るべし。ただし、西宮時代の成績(全然良くなかったが)と合算しての平均でいえばちょうど3.0くらいであり、学区最低ランクの都立であればギリギリ入れる算段でこの時はまだ楽観していた。 しかし、担任の口から出たのは「君が入れる都立はない」だった。西宮の成績の話をすると、 「関西の学校の成績を入れると公平じゃなくなる」、つまり自分の内申点はこの3年の二学期の中間期末のみの結果で判断されるということだった。青天の霹靂。二学期の成績だけなら確かに入れる都立はどこにもない・・・。 結果的に「名前さえ書けば入れる」とされる私立高校に単願推薦ということになった。 年も越してないうちに自分の実力が反映されることなく勝負の土俵にさえ立てずに不完全燃焼ストレスが酷い中、年が明けたばかりのある日、Jが私の自転車(厳密に言うと兄の自転車)に乗って帰って、Jの自宅の下に駐輪したのだがなんとその自転車が無くなって(誰かに盗まれて)しまうということがあった。 無くなったことに関しては完全に不可抗力でありJとしても全く悪気はなかったのは知っている。 しかし、この日を境に私はJと疎遠(こちらから一方的に)になった。 Jはこの「自転車を無くしてしまったこと」に私が怒っていると思っていたようだが、 実際には「あの期末テストの前夜に勉強できなかったこと(その結果、不本意な高校進学となったこと)」をずっと自分は怒っていたのがたまたまこの自転車紛失を機に態度を明るみにしたに過ぎなかった。 高校進学後のある日Jから電話がかかってきた。 「自転車のことをあらためてちゃんと謝りたい」ということだった。 「実はそのことで怒ってるわけじゃない」ということはその時も言えず、 都内の中学の番長たち(こう書くとマンガみたいだけど本当にそうだった)が集まる「ザ・ツッパリワールドカップ」のような高校に進み、ガリ勉優等生と化し、ただひたすらに三年後に「大学受験戦争に飛び込み実力で勝利すること」だけを目標に高校生活を送っていた自分にはどうしても簡単にJのことを許せずにいた。 それから40年近い歳月が流れ、中学の同窓生のFacebookページにJが入ってきたのを知った。しかしもしもJがMessengerでメールをくれて友達申請をしてきたとしても再び繋がることはなかっただろう。
ある平日の営業中、一人のお客さんが会計した。目の前にいたのはJだった。 40年の歳月は互いの風貌も変え、私はお客さんで来たJに初めは気づかなかった。 店内でバタバタしている私に話しかけるタイミングが無いと踏んだJはコーヒーを飲みながら手紙を書いて、会計の際に自己を明かすと持参した菓子折りと共にその手紙を私にくれた。その場でパパっと手紙に目を通すと「自転車紛失に対する謝罪」さらに「教えてくれたギターによってずっと音楽を続けてこれたことへの感謝」が書かれてあった。
あんなに許せなかったことが一瞬にして完全に許せた。
メールではなくはるばる青梅の方から直接会いに来てくれたJ。 とても勇気が要たであろう中、40年の歳月を経た今、直接思いを伝えに来てくれたJ。
私は「ちょっと、まだ時間ある?こっちもいろいろ話したいんだけど」と言い、 その後「怒ってたのは自転車のことじゃなく期末テストの前日の~云々」のことを筆頭に包み隠さず話した後でお互いの近況も話し合った。完全なる雪解け。 どうやら自分が影響を与えていたらしい音楽をずっと続けてくれたことも感無量で、 その夜に「自宅録音全作詞作曲演奏Jによる楽曲」をYouTubeで見た。 どれだけ長いこと音楽を真剣に真摯にやり続けてきたかということは1曲聴けば十分わかる。こっちも伊達に長年音楽に向き合ってきてるわけじゃない。Jの音楽は本物だった。 40年のブランクを埋めるには時間が足りるわけもなく、後日私はJと懐かしの地、阿佐ヶ谷で待ち合わせをして思い出の地を巡りながらひたすらお互いのことを喋りまくった。 あの日の社宅アパートは駐車場になり影も形もないけれど、 あのアパートの屋上の更にその上の梯子で登っていく汲み上げ式ポンプのタンク(?)か何かのあの狭い空間で二人だけでいつまでも歌ってた映像は今でも鮮明に思い出せる。 止まっていた時計が再び動き出した。 ありがとうJ。こうなったらお互いあと40年以上生きて帳尻合わそうや。 本当にありがとう。
元3年E組 赤澤 智
by coffeebunmei
| 2020-09-06 20:01
| マスターの日記
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