とある日曜混雑営業の最中だった。一人の外国人美女が入店、私はたどたどしい英語で「Please sit wherever you like(お好きな席にお座りください)」と言うや否や、「あとでまた来ます、今日はよろしくお願いします」とメチャメチャ上手な日本語が返ってきてビックリしたその数十分後、報道番組「スーパーJチャンネル」の収録が当店で行われると、なんと先ほどの外国人美女も入ってきた。TV制作スタッフを引き連れることもなく事前に取材先の店に単独で挨拶しに来てくれたことを私はその時知った。
さらに日曜混雑店内の空気も読み、手短に挨拶をしてくれたことも知った。
凄いなこの外国人・・・と思った。
収録シーンはというと「地獄のカレーパンを食す」という俗っぽさ全開の内容(笑)。
その女性に「マスターもどうぞ!はい、ア~ン」と口元に運ばれ反射的に食べることになったのだが、その際にカレーが私のワイシャツについたのを彼女はとても気にして、
カメラが回ってないところで「すみません、弁償します」と言ってきたことにビックリして「いやそんなそんな、全然大丈夫ですよ」と言いながら、なんだかとてもちゃんとした人でやっぱり凄いなこの人・・・と思いつつロケは終了。
その女性の名はサヘルローズさんということを知りメモした。
数日後ロバートハリスさんと話をしていた時にこのサヘルローズさんの話になり、
彼女がかつてJ-WAVEにもいたことや数奇な人生を送ってきたことなど、簡単に聴いただけでもかなりの衝撃を受けたのは覚えている。
あれから10年近く経って、先日NHKで放送された彼女の特番を見た。
彼女のことを知らない人のために本当に簡単に彼女のプロフィールを紹介すると、
「イラン・イラク戦争時、イラク軍の空爆により13人の大家族のなかで生き残ったのが末っ子の彼女だけで、出生年、出生名は不明。後年「砂漠に咲く薔薇」という意味の名【サヘル・ローズ】と名のることになる。
救護隊ボランティア要員としてテヘラン大学からかけつけていた、後に養母となるフローラ・ジャスミンさんに救い出され、孤児院で暮らすこととなり、のちにジャスミンさんと8歳のときに来日する。当時の生活は非常に貧しく公園でホームレス生活を経験」
この字面を追うだけでも壮絶さはわかるが、この特番を見たあと私はしばらく呆然として動けなかった。大昔の話ではない現代のしかも日本でこんな人が実在するなんて・・・
私は前職(学習塾)時代、残務で帰宅出来ず、教室で寝泊まりする日が続いたとき、「今自分はなかなかどん底の毎日を送っているなぁ」と思っていたものだが、考えてみたら雨風も凌げているし、目の前にはすぐコンビニだってあった。布団は無く教室の床なれど寝袋も枕も装備してた。これとほぼ同時期にサヘルさんとジャスミンさんは親子女性二人で公園で暮らしていたことになる・・・。
サヘルさんともう一度会ってみたい、などとおこがましい願望は閉まっておくが、
気高く美しい一輪の薔薇がこのお店に一時でも居らして咲いてくれた事実はこの店の誇りのひとつである。
珈琲文明 店主 赤澤 智