「店舗物件浪人時代」
(※今月の文明通信は表と裏のA面B面で完結するレコードみたいな仕上がりになっておりますので、ぜひ裏面もご覧ください)
12年前、私はまだ物件も決まっていないのに六角橋に店を出したくて前職を辞めて横浜に引っ越してきました。不惑、四十歳直前でしたから勢いに任せて脱サラしたわけではもちろんありません(笑)。前職は学習塾の教室長という性質上、抱えていた生徒の受験が終わる春のタイミングで退職する旨を一か月前ならぬ一年前から本部の役員、上司には通達して引き継ぎをし、周到に退職しました。しかし引っ越して来て肝心の物件が決まらないまま半年が過ぎました。そんな時に懇意にしていた不動産屋さんから、60年続いた老舗衣料品店「駒屋」が勇退される知らせを聴き、まさに理想的な物件だったのでどうしてもここを借りたいという意志表示を不動産屋さんと大家さん(駒屋店主)双方にしました。
60年も続いた名店の閉店ゆえ、関係者へのあいさつや在庫販売セールを半年かけて行いたい旨を聞き、半年待つことにしたので通算すると物件取得まで1年間待ったことになります。大変良質な物件ゆえ公募すればたちまち多くの希望者が現れたことでしょうし、かつ解体も造作も不要の居抜きでの物販店への貸与のほうがリスクもなくスムーズな移行といえるにもかかわらず、大家さんは私以外の候補者を募ることもなく、飲食店への転換に内定をくださったことは本当に今でも感謝しています。先日「大家、物件オーナー」側の立場にいる知人に「物件公募期間日数ゼロ、以後撤退による空室期間ゼロで常に更新継続、というのは優良な店子といえるから嬉しいものだよ」という話を聞き、私はここの物件賃貸契約を11年継続更新していることで少しは大家さんへの恩義に報いてるのかもしれないと思うと嬉しいですし、「駒屋」から「珈琲文明」に空室期間ゼロでスイッチして以降絶えることなくと考えると11年ではなく70年の重みすら感じられて身が引き締まります。本来であれば店舗内装工事というものは家賃も発生することもあって、10日からせいぜい2週間程度で終わらせるものなのですが、そんなわけで半年間の待機期間は家賃が発生することなく、「場所はここだ」という前提のもとでいられたので内装及びオペレーションの限りないシミュレーションを繰り返せたのは本当にラッキーでした。それでも内装工事に2か月費やしたのはさすがに異例でしたが・・・。
さて、半年間家賃が発生しなかったのは確かですが、住居の家賃をはじめ生活費は当然発生し、かつ無職になっていた私は、開業のための資金を切り崩している場合でもないので、四十歳にして肉体労働系のアルバイトをすることにしました。
(つづきは裏面をご覧ください)
珈琲文明 店主 赤澤 智